iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後資金を準備する私的年金制度の一つです。自分で掛金を拠出し、投資信託や定期預金などの商品を選んで運用します。掛金は全額所得控除の対象となるため、所得税や住民税の負担が軽くなる場合があります。
iDeCoの節税効果は年収や課税所得、掛金額などによって変わりますが、おおむね4万円〜9万円程度がひとつの目安です。一方で、所得税や住民税がかからない人は、掛金を拠出しても所得控除による節税効果を受けにくいため、注意が必要です。
本記事ではiDeCoの節税効果について、ファイナンシャルプランナーが、計算方法、年収別・掛金別のシミュレーションを交えながら解説します。
【早見表】iDeCoの節税効果を年収別にシミュレーション
iDeCoの節税効果を、いくつかの年収を例に見ていきます。今回は、会社員で年間掛金27万6000円(月2万3000円)を払う場合の概算節税額を見てみましょう。
年収(課税所得)の目安 | 所得税率+住民税率 | 年間の節税額(概算) |
|---|
300万円前後(課税所得1000円~194万9000円) | 5%×1.021+10%=15.105% | 約4万1700円 |
年収500万円前後(課税所得195万〜329万9000円) | 10%×1.021+10%=20.21% | 約5万5800円 |
年収800万円前後(課税所得330万〜694万9000円) | 20%×1.021+10%=30.42% | 約8万4000円 |
年収1200万円前後(課税所得695万〜899万9000円) | 23%×1.021+10%=33.483% | 約9万2400円 |
※年収の目安は、給与所得者を想定した大まかな参考です。実際の課税所得は、給与所得控除、基礎控除、社会保険料控除、配偶者控除、扶養控除などによって変わります。
※年間節税額は「年間掛金27万6000円×税率」で計算しています。
上記の表のとおり、所得税率が高い人ほど、節税効果も大きくなる傾向があります。そのため、年収800万円や1000万円といった比較的所得の高い方ほど、iDeCoの節税メリットは大きくなりやすいといえます。
一方、所得税率が低い場合は、iDeCoの掛金を拠出しても、所得控除による節税効果が限られる可能性があるでしょう。
【掛金別】iDeCoは月いくらでどれくらいの節税効果がある?
年収別だけでなく、掛金額ごとの節税効果も確認しておきましょう。
ここでは、所得税率20.42%(復興特別所得税含む)+住民税10%=30.42%(年収800万円前後)の人を例に、掛金別の概算を見てみます。
毎月の掛金 | 年間掛金 | 年間の節税額(概算) |
|---|
5000円 | 6万円 | 約1万8300円 |
1万円 | 12万円 | 約3万6500円 |
2万円 | 24万円 | 約7万3000円 |
2万3000円 | 27万6000円 | 約8万4000円 |
※年間節税額は「年間掛金×税率」で計算しています。
iDeCoの掛金が大きいほど、節税額も増えていきます。
ただし、掛金には職業区分ごとに上限があります。たとえば、会社員は原則2万3000円、個人事業主は6万8000円が上限です。会社員の場合は、勤務先の企業年金の有無によっても変わるため、事前に自分の掛金拠出限度額を確かめておきましょう。
【節税のしくみとは】なぜiDeCoで税金が安くなる?
iDeCoで節税効果が期待できるのは、掛金が「小規模企業共済等掛金控除」の対象になるためです。
所得控除とは、税金の計算のもとになる「課税所得」を圧縮するしくみです。所得税や住民税は、収入そのものではなく、所得から各種控除を差し引いた後の金額などをもとに計算されます。
iDeCoの掛金を拠出すると、掛金の全額を所得から差し引けます。その結果、課税所得が下がり、所得税や住民税所得割の負担が軽くなる可能性があるのです。
iDeCoの税制上の主な特徴は、以下の3つです。
タイミング | 税制上の特徴 |
掛金を拠出するとき | 掛金が全額所得控除の対象になる |
運用しているとき | 運用益が非課税で再投資される |
受け取るとき | 一時金は退職所得控除、年金は公的年金等控除の対象になる |
ただし、投資信託などで運用する場合は、元本割れのリスクがあります。また、原則として60歳まで資産を引き出せません。iDeCoを利用する際は、節税効果だけでなく、運用リスクや資金拘束期間も含めて確かめましょう。
iDeCoの節税額の計算方法
iDeCoの年間の税負担軽減額は、以下の式で計算できます。
- 年間の税負担軽減額=年間掛金額×(所得税率×1.021+住民税率10%)※復興特別所得税(所得税額の2.1%)を含む
上記はあくまで概算の数字のため、おおよその節税額を確かめたいときに有効です。
たとえば、毎月1万円を拠出する場合、年間掛金は12万円です。
所得税率10%、住民税率10%の場合、年間の税負担軽減額は以下のようになります。
- 12万円×(10%×1.021+10%)=約2万4300円
iDeCoの節税効果は、所得税の還付や住民税の軽減といった形で受けられます。所得税分については、年末調整や確定申告で精算され、住民税分は一般的に翌年度の住民税に反映されます。掛金を払った時点で必ず現金が戻ってくるわけではないため、注意しましょう。
【職業別】iDeCoの掛金上限と節税効果の見方
iDeCoの掛金上限は、職業や勤務先の企業年金制度によって異なります。拠出限度額は、以下のとおりです。
会社員の場合
企業年金のない会社員は、原則月額2万3000円まで掛金を拠出できます。所得税や住民税所得割が課税されている人であれば、掛金額と税率に応じて税負担軽減効果が見込めます。
ただし、勤務先に企業型DCや確定給付型企業年金などがある場合は、拠出限度額が原則2万円になります。企業年金の加入状況によって実際に拠出できる金額が変わるため、勤務先の制度を確認しましょう。
公務員の場合
公務員も、iDeCoの掛金は全額所得控除の対象です。拠出限度額は原則月額2万円です。
たとえば、所得税率10%、住民税率10%の年収帯の人が毎月2万円を拠出した場合、年間の税負担軽減額は約4万8500円です。
- 24万円×(10%×1.021+10%)=約4万8500円
自営業者・フリーランスの場合
自営業者やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者は、月額6万8000円まで拠出できます。会社員や公務員より掛金上限が大きいため、拠出額によっては所得控除額も大きくなります。
たとえば、月額6万8000円を拠出する場合、年間掛金は81万6000円です。所得税率20%、住民税率10%で概算すると、年間の税負担軽減額は約24万8200円になります。
- 81万6000円×(20%×1.021+10%)=約24万8200円
ただし、月額6万8000円の拠出限度額は、国民年金基金または国民年金付加保険料と合わせた上限です。別の制度を併用している際は、それらを除いた金額がiDeCoの掛金拠出限度額になるとおさえておきましょう。
専業主婦(主夫)の場合
国民年金第3号被保険者である専業主婦(主夫)も、iDeCoに加入できる場合があります。拠出限度額は月額2万3000円です。
ただし、専業主婦(主夫)の場合は配偶者の扶養に入るなどして、本人に所得税や住民税所得割がかからない場合があります。この場合は、掛金の所得控除による節税効果は生じにくくなるため、掛金額の設定の仕方には注意が必要です。
会社員や公務員と同じように制度自体は活用できるため、老後資金の準備方法としてiDeCoが適した方法であるかよく確かめたうえで使うのが望ましいです。
iDeCoの節税効果が出にくいケースとは
iDeCoは節税効果が期待できる制度ですが、誰もが同じような効果を得られるとは限りません。節税効果が出にくいケースとしては、以下のようなことが挙げられます。
- 所得税・住民税が非課税または金額が少ない
- 手数料負担が大きい
- 住宅ローン控除などほかの控除の影響で税額が少ない
- 扶養内で働いていて課税所得が少ない
iDeCoの節税は「払う税金を軽くする」しくみです。そのため、もともと税金がかからない方には、所得控除による節税のメリットが生じません。
また、iDeCoでは加入時、掛金拠出時、資産管理時、受取時に手数料がかかります。掛金が少ないと、節税効果や運用益に対して手数料の負担が大きいと感じやすくなります。ただし、所得控除による節税効果が小さい場合でも、運用益が非課税になる点や、老後資金を計画的に準備しやすいといった、ほかのメリットは享受しやすいです。
節税の観点のみで考えるのではなく、資産を運用する目的なども考慮して使うのが望ましいです。
【FPの視点】iDeCoの節税効果をどう活かす?
iDeCoの節税効果を確かめる際は、節税額に加えて家計への影響や資金計画といった面も整理するのが重要です。主なポイントとしては、以下のようなことが挙げられます。
課税所得や所得税率
- 所得税額・住民税額
- 毎月の掛金額と拠出限度額
- 住宅ローン控除などの税額控除制度による控除額
- 手数料などの運用コスト
- 受け取る際の方式(一時金・年金)
- 運用時のリスクの許容度
iDeCoは、あくまで老後資金づくりを目的とした制度です。原則60歳までは資金を引き出せないため、家具の買い替えや旅行のお金など短期的に使う予定の資金や、生活費・緊急時の備えを圧迫してまで拠出すると、必要なときにお金を使えなくなってしまいます。
また、iDeCoで運用する商品は自分自身で選ぶ必要があります。商品の内容やリスク、手数料を比較し、現在の自分の家計や資産状況、老後資金の目標金額にあったものを選びましょう。
iDeCoの節税効果に関するよくある質問
iDeCoの節税効果は年収で決まりますか?
iDeCoの節税効果は、年収そのものではなく、課税所得や所得税率によって変わります。たとえば、以下のような控除が適用されれば、課税所得が変わるため節税額も異なります。
給与所得控除
- 基礎控除
- 社会保険料控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
まずは自分の年収から、おおよその課税所得と税率を確認してみましょう。
年収200万円でもiDeCoの節税効果はありますか?
年収200万円前後の場合でも、本人に所得税や住民税所得割が課税されていれば、iDeCoの掛金控除による税負担軽減効果を受けられる可能性があります。
ただし、所得税や住民税所得割が少ない場合や各種控除によって課税所得が少ない場合などは、節税効果が十分に得られない場合もあります。
iDeCoとふるさと納税は併用できますか?
iDeCoとふるさと納税は併用可能です。ただし、iDeCoの掛金控除によって課税所得や住民税所得割額が下がると、ふるさと納税の寄附上限額が下がる場合があります。
iDeCoを始めた年や掛金を増やした年は、ふるさと納税の上限額を改めて確認しましょう。
iDeCoの節税効果で社会保険料も安くなりますか?
会社員や公務員の健康保険料・厚生年金保険料は、給与などの報酬にもとづいて決まります。そのため、iDeCoの掛金を所得控除したことによって、会社員や公務員の社会保険料が直接下がるわけではありません。
とくに、国民健康保険料などは自治体によって算定方法が異なるため、加入する健康保険の運営団体の案内や通知をよく確かめるようにしましょう。
【まとめ】節税効果は人(課税所得)により異なる。家計の状況も含めて確認を
iDeCoの節税効果は、掛金が全額所得控除の対象になることで生じるものです。年間の税負担軽減額は、以下の計算式で確かめましょう。
節税効果は年収だけではなく、課税所得や各種控除、所得税率によって変わります。所得税や住民税所得割がかからない人は、所得控除による節税効果を受けにくい点にも注意が必要です。
また、税率や掛金の上限は制度改正で変わる場合があります。最新の情報は、公的機関の公式サイトもあわせて確認しておきましょう。
iDeCoは老後資金をつくるための制度であり、税制優遇はあくまで制度上の特徴のひとつです。制度を活用する際は、節税できる額だけでなく、家計の状況や運用期間、将来必要になる資金、受取時の税金などもあわせて確認しましょう。
参考資料