物価高が続くなか、老後資金の準備手段として、iDeCo(個人型確定拠出年金)への関心が高まっています。
iDeCoは、掛金が全額所得控除の対象で、運用益は非課税、受取時も一定額までなら税負担がかからないという、税制優遇に強みを持つ制度です。しかし、制度名称を聞いたことはあっても、iDeCoを使うといくらの資金を貯められるのか、どれくらい得になるのかはわからない人もいるのではないでしょうか。
iDeCoを始める際は、将来受け取れる金額をシミュレーションし、効果を検証するのが重要です。
本記事では、ファイナンシャルプランナーの視点から、iDeCoシミュレーションの基本となる「3つの軸」(節税・運用・受取)を整理し、新NISA・ふるさと納税との併用試算や、iDeCoシミュレーションを行なう際の公式ツールの使い方まで、やさしく解説します。
【iDeCo】シミュレーションは「3つの軸」 で整理する
iDeCoのシミュレーションは、主に以下の3点を確認しましょう。
節税シミュレーション | 掛金が所得控除された場合の所得税・住民税の負担軽減額 (年間節税額の概算式は 掛金合計 × (所得税率+住民税率10%) |
運用シミュレーション | 掛金を一定の利回りで運用した場合の将来資産額 |
受取シミュレーション | 一時金・年金・併用で受け取る場合の税負担額 |
iDeCoは、拠出した掛金の全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になります。運用益は非課税で再投資され、受取時には一時金であれば退職所得控除、年金であれば公的年金等控除の対象となります。なお、受け取りの際は一時金と年金の併用も可能です。
一方で、投資信託などの運用商品には元本割れのリスクがあります。また、iDeCoの資産は原則として60歳まで引き出せません。
シミュレーションをする際は、上記の3点を中心に、家計の余裕資金額や運用期間なども確かめたうえで実施しましょう。
なお、iDeCoの拠出限度額は加入区分で異なります。
国民年金第1号被保険者 (個人事業主・フリーランスなど) | 月額6万8000円 |
国民年金第2号被保険者 (会社員) | 企業年金がない場合:月額2万3000円 企業年金に加入している場合:月額2万円 |
国民年金第3号被保険者 (専業主婦・主夫) | 月額2万3000円 |
公務員 | 月額2万円 |
シミュレーション前に、毎月の掛金をいくらに設定しておくか決めておくと、老後資金の見通しが立ちやすくなるでしょう。
【iDeCo節税シミュレーション】掛金は「全額所得控除」の対象:所得別に比較した例
iDeCoの魅力のひとつが、掛金が全額所得控除の対象になることです。所得税と住民税が軽くなる仕組みですが、年収や所得税率によって節税額が変わります。
節税額の基本的な計算式は、以下のとおりです。
※復興特別所得税を考慮しない場合。
では、所得別で掛金を月2万3000円拠出した場合の節税額を比較してみましょう。
課税所得の目安 | 所得税率(目安) | 月2.3万円拠出時の年間節税額 |
|---|
195万円未満 | 5% | 約4万1400円 (2万3000円×12×15%) |
195万〜330万円未満 | 10% | 約5万5200円 (2万3000円×12×20%) |
330万〜695万円未満 | 20% | 約8万2800円 (2万3000円×12×30%) |
695万〜900万円未満 | 23% | 約9万1080円 (2万3000円×12×33%) |
900万円以上~1800万円未満 | 33% | 約11万8680円 (2万3000円×12×43%) |
1800万円以上~4000万円未満 | 40% | 約13万8000円 (2万3000円×12×50%) |
4000万円以上 | 45% | 約15万1800円 (2万3000円×12×55%) |
たとえば、所得300万円・所得税率10%の会社員が月2万3000円を30年間拠出した場合、節税効果の累計は「5万5200円×30年=約165万円」になります。
ただし、所得税率は基礎控除や社会保険料控除といった各種控除を差し引いた後の「課税所得」によって決まるため、同じ年収でも家族構成や受けられる控除によって、税負担の軽減額は異なります。また、税制は制度改正によってルールが変わるため、毎年上記のような控除額を受けられるとは限りません。シミュレーションで算出した金額は、あくまで想定額として捉えておくとよいでしょう。
【iDeCo運用シミュレーション】利回り別の「将来資産」はいくら?
iDeCoの将来資産は、毎月の掛金、運用期間、想定利回りによって変わります。運用シミュレーションの際は、複数の条件で結果を比較すると、想定利回りによる金額の違いを確認できます。
例として、4つの年利で月額2万3000円を30年間積み立てた場合の概算資産をシミュレーションしてみましょう。
想定利回り | 30年後の概算資産 | 元本との差 |
|---|
年利0.1% | 約840万円 | 元本+約12万円 |
年利3% | 約1331万円 | 元本+約503万円 |
年利5% | 約1875万円 | 元本+約1047万円 |
年利7% | 約2689万円 | 元本+約1861万円 |
※元本は2万3000円×12ヵ月×30年=828万円。
たとえば、年利5%で運用した場合、年利0.1%で運用した場合に比べて約103540万円もの差が生まれます。長期的に複利効果を得られるため、高い利回りで運用するほど運用益は増えていくのです。
ただし、上記のシミュレーションは一定の利回りで継続的に運用できた場合の結果です。実際には投資信託の価格や運用成績が変動するため、毎年一定の利回りが得られるとは限りません。
また、想定利回りは将来の運用成果を保証するものではなく、元本を下回る可能性もあります。試算する際は、低利回りのケースや損失が生じたケースも想定しておきましょう。
【iDeCo受取シミュレーション】一時金 vs 年金、どちらがお得?
iDeCoの給付金は、基本的に以下の3つの方法で受け取れます。
一時金 | 一括で給付金を受け取る。受け取った給付金は退職所得として扱われる。 |
年金 | 一定期間に分けて給付金を受け取る。受け取った給付金は公的年金等に係る雑所得として扱われる。 |
併用 | 一時金と年金を組み合わせて受け取る。退職所得・公的年金等に係る雑所得それぞれが生じる。 |
一時金で受け取った場合、その給付金は退職所得控除の対象です。退職所得控除の基本的な計算式は、以下のとおりです。
勤続年数・加入期間 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
通常は勤続年数をもとに算出しますが、iDeCoの一時金の場合は掛金の拠出期間をもとに計算します。
たとえば、掛金を拠出した期間が30年の場合、退職所得控除の基本額は1500万円です。
- 800万円+70万円×(30年−20年)=1500万円
会社の退職金など、ほかの退職手当を受け取っていない場合、iDeCoの一時金が1500万円以下であれば、退職所得の金額は原則として0円になります。ただし、会社の退職金の受取時期によっては、控除額が調整される可能性があるため、注意しましょう。
一方、年金形式で受け取る場合は、公的年金等控除の対象となります。公的年金等控除は、iDeCoの給付金に加えて、公的年金や企業年金などを合算した「公的年金等の収入の合計額」によって控除額が変わる仕組みです。年金以外の所得が1000万円以下の場合、60歳〜65歳未満では最低60万円、65歳以上では最低110万円が控除されます。
控除額によって、課税される所得金額も変わります。所得金額は所得税や住民税、社会保険料に影響を及ぼすため、公的年金の受給額や年間の公的年金にかかる雑所得の合計額をよく確かめ、一時金形式とどちらのほうが負担が軽いか比較してみるとよいでしょう。
新NISA・ふるさと納税との併用試算について
iDeCoとあわせて、新NISAやふるさと納税の活用を検討している人もいるでしょう。それぞれの制度は、仕組みや目的が異なります。
iDeCoは、税制優遇に強みがある制度ですが、60歳まで運用した資産は引き出せません。そのため、老後資金をつくるのに適した制度です。新NISAは、運用益が非課税になるのが特徴です。iDeCoとは異なりいつでも売却でき、売却時に狭まる非課税枠も翌年に復活するため、運用しながら必要なときに取り崩しができます。
ふるさと納税は、自治体に一定額を寄附することで「寄附額-2000円」が所得税・住民税から控除される制度です。iDeCoやNISAのように節税できるわけではありませんが、税控除や返礼品を受け取れる点に強みがあります。
各制度を併用した際のシミュレーションをする際は、以下のポイントが重要になります。
とくに、iDeCoとふるさと納税を併用する際は、ふるさと納税の控除上限額がいくらになるかチェックしておくとよいでしょう。ふるさと納税の上限額は、年収や家族構成、その他控除によって異なります。それぞれの制度に合致した試算ツールを活用するのが望ましいです。
【公式ツール】iDeCoのシミュレーションができるツールの一覧
iDeCoのシミュレーションには、公的機関や金融機関(各運営管理機関)が提供するツールを利用できます。いくつか例を見てみましょう。
ツール提供元 | 特徴 |
|---|
国民年金基金連合会(iDeCo公式サイト) | かんたん税制優遇シミュレーション ・年収から節税額を即試算 |
厚生労働省 | 公的年金シミュレーター ・iDeCoの試算に加え公的年金の試算が可能 |
金融機関(運営管理機関) | 運用利回り別の資産額や受取額の試算 |
一般的な操作の流れは、次のとおりです。
- 職業、年齢、収入などを入力する
- 掛金月額を設定する
- 想定運用利回りや運用期間を設定する
- 必要に応じて受取開始年齢などを設定する
- 税負担軽減額や将来資産額を確認する
ツールによって、入力項目や計算方法は異なります。できる限り、掛金や運用期間、想定利回りなど条件を揃えて、各ツールでの結果を比較してみるとよいです。
なお、シミュレーション結果はあくまで概算です。実際の税負担や受取額は、所得や各種控除、社会保険料、運用成績、受取時の税制などによって異なります。
また、運営管理機関のツールを利用する場合でも、試算結果だけで具体的な金融商品を選ばず、手数料、運用方針、リスクなども確認したうえで判断するのが望ましいです。
【FPの視点】iDeCoのシミュレーション時の注意点
iDeCoのシミュレーションでは、以下のポイントを見落とさないようにしましょう。
- 受取時の社会保険料・住民税への影響
- 退職所得控除と退職金の調整
- 掛金拠出時・運用時・受取時の手数料
iDeCoは一時金形式と年金形式での受け取りが可能ですが、年金形式で受け取ると、公的年金等に係る雑所得として扱われます。公的年金や企業年金といった、ほかの年金と合算した所得金額によっては「住民税が思ったほど軽減されない」「社会保険料の負担が増えてしまった」といったことにつながりかねません。
一方、一時金として受け取る場合は退職所得控除が適用されます。こちらは、会社の退職金の受取時期によっては、控除額が変わる可能性があるため、注意が必要です。
たとえば、iDeCoの一時金を受け取った後に会社の退職金を受け取り、それぞれに退職所得控除を適用するには、iDeCoの一時金受取から退職金の受取まで10年以上の期間を空けなければなりません。10年経たないうちにiDeCoの一時金と退職金を受け取ると、退職所得控除を十分に適用できず、退職所得に対する税負担に影響する場合があります。
そして、掛金拠出を始める前に確かめておきたいのが「手数料」です。iDeCoでは、加入時や掛金拠出時、資産管理時、受取時など多くのシーンで手数料がかかる可能性があります。
たとえば、「掛金拠出時の手数料が月額合計171円の場合、30年間の合計は6万1560円」です。金融機関(運営管理機関)によっては、手数料を別途独自で徴収したり、投資信託を選ぶ際に信託報酬がかかることがあります。掛金と想定利回りに加えて、手数料も確認しましょう。
【まとめ】シミュレーションは前提条件を変えて複数の試算を
iDeCoはさまざまな税制優遇がある制度です。シミュレーションの際は、節税額、運用額、受取方法ごとに試算してみるとよいでしょう。税負担は所得や各種控除、運用額は掛金や運用期間、利回りによって変わるため、いくつかのパターンを用意して試算するのが望ましいです。
また、iDeCoは原則60歳までは引き出せず、運用商品によっては元本割れする可能性があります。制度や商品の特徴を十分に理解し、自分の家計にあった掛金設定や運用の仕方をすることを心がけましょう。
参考資料